田口淳之介というアイドル


ついにKAT-TUN田口淳之介さんがジャニーズ事務所を退社してしまった。私は一介のジャニオタに過ぎず、しかもKAT-TUNを担当としていた期間も短い上に田口くんを自担とはしていなかったため特別強く思い入れがあったわけではないが、彼がアイドルでいることを辞めることを選択しそれを私たちに知らせたあの日から、目や耳の届く範囲で彼の動向を気にかけていた。

そんな私が見る田口くんの印象は、いつもにこにこしていて無邪気な少年みのある人。一度ステージに立てばその恵まれた体型と努力がみられる圧倒的なキレのあるダンスでついつい目で追ってしまう人。だからこそ音楽番組などで「4人でのパフォーマンスはこれで最後となります」というようなフレーズを聞くたびに、なんとも言えない複雑な気持ちになった。

彼は辞めた後について明確なことを一切口にしなかった。それは様々な憶測や噂を飛び交わせるに至ったが、彼が辞めることを発表した時の表情やそれ以降のKAT-TUN田口淳之介としての堂々とした立ち振る舞いを見ていると、この人はきちんとそうなることがわかっててあえて黙っていたのだと気付かされた。辞める理由やその後のことについて嘘を吐きたくないのかもしれないとも思った。

真面目な顔でそれなりのことを言って世間が「それならしょうがないね」と言って終わらせられる方法はいくらだってあったはずなのに。私の憶測で考えすぎなのかもしれないが、彼は世間のバッシングも根も葉もない噂やイメージの一人歩きも直接浴びることで「辞める」ということへの罪を償うという意味も込められていたのかもしれないと思った。そしてそんな中最後まで、決められた期日までKAT-TUN田口淳之介を笑顔でやりきった。辞めた理由は依然として謎であるしそれをいやらしく探ろうとも思わないけれど、それほどの覚悟や決意を持って彼が決断したのだとしたら、私たちは田口くんの見方を変えるべきだ。彼は1人の男として恐ろしくかっこいい。私たちに見せるにこにこしていて無邪気な少年みのあるアイドルではない一面と男らしさに危うく悩殺される。

先日、国際系に身を置く友人が「まぼろしって英単語なんだっけー?」と突拍子もなく聞いてきた。色々候補を挙げたものの、お手上げ状態になりGoogle先生を頼ることにした。"まぼろし"という英単語はたくさんあった。へえ〜こんなのもアリなのね〜と学んでいたら、ある辞書にはこの英単語も"まぼろし"という意味でその身を置いていた。

idol

それを見つけた時、身体中に鳥肌が立った。そして2016年4月1日現在、既に"まぼろし"となった田口くんを思い出さずにはいられない。私が最後に彼の姿を見たのはMステだった。KAT-TUNのデビュー曲real faceを正に全身全霊をかけてパフォーマンスしてくれた田口くん。最後に大きな花束を渡され、本当に彼がジャニーズアイドルとして私たちの前に姿を見せることはないのだと思い知らされた。まさにまぼろしになる瞬間を見ているのだと思った。

アイドルとはいつかは終わるものなのだろう。私の担当するV6はデビュー間もなく光GENJIの解散コンサートに出演している。あの頃と比べて寿命は伸びに伸びている。「いつ辞めるのが正しいのか」なんてきっと事務所もわからないだろう。ダラダラとぐるぐると巡るそんな脆い渦の中から田口くんはたった1人でもがき苦しみ抜け出した先が辞めるという選択だった。たくさんの批判や「辞めないで」の声を浴びながら、その選択を曲げなかった。

アイドルがまぼろしであるならば実際に存在している彼らの究極の姿とは何なのだろうか。アイドルはそんな矛盾も抱えているのではないだろうか。世間が望む姿と実際の個人の姿の間に溝があるアイドルだっていたっておかしくない。私が調べたGoogle先生のとある辞書にはidolはまぼろしという意味を持つと書かれていたけれど、私たちの前にいるアイドルはまぼろしなんかじゃない。確かに存在していたのだ。田口淳之介というアイドルは、確かに存在していたのだ。

アイドルとは、夢を与える職業だと冗談まじりで言われるのをよく耳にする。なら、役目を終えた彼に今、私から贈れる言葉といえばこれに尽きるのではないだろうか。

田口くん、今までたくさんの夢を与えてくれて本当にありがとうございました。